春祭りの夜は微かに泡立つ

ワイズマンの『肉』を見終わって、出口に向かってあるいていくと、珍しくスーツを着たカキザキさんとばったり出会う。

おお、ワイズマンを見に来るなんてさすがじゃねえかと思ったが、話を聞いてみると、打ち合わせにきたのにオガワさんの手が空かず「その間ワイズマンでも見ててください」ということになったらしい。

ワイズマンでも、って、ねぇ、それに最初が『肉』というのは、今回のラインナップの中でオガワさんイチオシの作品とはいえどんなもんかと思うが、さすがに「いやあ、すごいですね」とのことであった。

『肉』は精肉工場のラインをつぶさに記録した、『霊長類』と同じくワイズマンとしては少し異色のトーンで撮られたドキュメンタリーで、やはり『霊長類』と同じく、私たちの身体が置かれた立場が具体的に示されて清々しい作品である。

カキザキさんとは以前から一度おいしいお酒でも、という話をしていたのだが、今晩いかがですか?というので、ちょうど改装再オープンしたC7 に寄ってみようと思っていたこともあり、一も二もなくそりゃいいですね、と応える。

『シナイ半島監視団』を見終え、作中で歌われた「7000マイル故郷から離れて」という監視団員自作のカントリー曲の印象を残しながら、定禅寺通りへでると、折しも青葉祭りの前夜祭である宵祭りがクライマックスの「総流し」を迎えるところであった。

総流しを終え、職場のチームが賞をとったのを見届けてから、なるほど青葉祭りというのは春の訪れを言祝ぐ祭りなのだなぁということが分かる気持ちの良い空気の中を待ち合わせ場所に向かう。

最初は、以前からカキザキさんが連れて行いきたいと言っていたヤキトリやさん。

今はこざっぱりしたビルにはいっているが、カキザキさんが学生だったころは木造のアバラヤだったとのこと、その頃に来てみたかった。

「ここはね、タレがいいんですよ」という言い方からして、カキザキさんも僕と同じく普段は「シオ派」なのであろう、タレとシオ両方とってくれたタレのほうのまず正肉を、ドレドレ、と食べてみると、中心部にほんのり赤みが差したようなちょうどよい焼き具合で、ジューシーなところにさらっと甘くないタレがからんで、いやほんとに「まいうー」なのであった(ちなみに、仙台では『デブや!』は土曜午後5時からなのでなかなか見られず寂しい)。

ご飯の炊き具合にムラがあるのが難だが、ちょうどよく炊きあがったときは僕は東京で一番美味しいと思う神楽坂の「たつみや」というウナギ屋のタレを思い出した。

他には、安達太良インターで買い求めたやつは古漬けっぽくやたらと辛くて閉口した(それでも美味しかった)行者ニンニクのさっぱりしたのとか、もろもろを、白木のカウンターでつまみながら、最初は清酒なのに微発泡しているすこしフルーティなのを、「微発泡といえば多くは濁りですけど」「花見と言えば微発泡うす濁りですねえ」と意見を一致させつつ一合、次は「ハウスサケ」でもあるところのスキッと端麗水のごときやつを、血のつながらない父子の情愛の話に泣かされつつ一合、さいごは日本酒のなかの日本酒というようなどっしりとゴージャスなやつを、早くもわけもわからず一合、都合三合おなかに納めてから店を出、国分町をあちこち歩いたこと以外細かいことは全部忘れたがなにか共感の印象だけを残して、気がつくと定禅寺通り沿いの2階、鉄枠のまどから夜明け近くの人気のない祭りあとのケヤキ並木を眺めるバーで、となりにカキザキさんが突っ伏して寝ていて、僕はセイロガン臭いモルトウィスキーで一息入れてカウンターの中のマスターであるところの女性とロレツが回らないのがわからないようにがんばって話しているのだった。

内容は、仙台の良いところ悪いところというようなどうでもいい話だったと思う。

日日雑記

Posted by Takuro