スプリング・サンダー
今回は時差ボケがひどくて
ぼんやりとしてしまい、
何しに来たんだかわかりゃしない
膜がかかって遠雷のよう
なにもかもが。
なんとなくそのまま帰る気がしなくて
家をやりすごして、家から50mほどの堤防へ。
海と空との境目が、いまの気持ちとそっくりに
膜がかかって曖昧な中に
遠く木更津までの光がちかちかしている。
ふと、この堤防のコンクリートの感触も
光の列が行き過ぎる京葉線の眺めも
海と空の境目があいまいなこの海も
さらには寄る辺ないこの気持さえも
20年前に家をやりすごしてやっぱりこの堤防に
もたれかかっていたあの時と全然変わりがないことに
気づいて笑ってしまう。
この寄る辺なさをかろうじて
この世に結びつけるこの身体が
いつか滅びようとは
ならば
ならば
すべてをすてて今夜荷物まとめて
サボテンもってレコードもって
やりかけだったパズルをすて
車に乗って夕日に沿って
知る人もいないとこに着くまで
(『サボテンレコード』)